前回に引き続き、HR・ピープルアナリティクスや心理学・産業保健の知見を活用した組織に対するコンサルティングなど、健康経営や職場のメンタルヘルス対策などを専門領域とする宮中大介先生にお話をお聞きしました。 後編は優秀な人材流失を防ぐために必須のメンタルヘルス対策についてです。メンタルヘルスの不調のサインなど、マネージャー層なら押さえておきたい内容ではないでしょうか。さらに「Willysm」に期待できることなどもお話しいただきました。
宮中大介先生 プロフィール
株式会社ベターオプションズ代表取締役、慶應義塾大学特任助教。 行動科学とデータサイエンスを応用したサービス開発を専門領域とする。格付会社にてアナリスト、EAP会社にてサービス開発部門長を経験し独立。東京大学大学院医学系研究科修了(公衆衛生学修士)。大学でポジティブ心理学やメンタルヘルスの研究にも従事している。メンタルヘルスの不調のサイン
今回は組織のメンタルヘルス対策についてお話ししましょう。 職場では社員の不調に管理職の方がいち早く気づくことが大切です。メンタルヘルスの不調のサインには仕事のミス、遅刻・欠勤の増加、身だしなみの乱れのほか、受け答えが不活性な感じになるなど、コミュニケーションにも影響が出てきます。 大企業が管理職に実施しているメンタルヘルス研修で、まず私はこのことを伝えています。社員の不調に注意している管理職は多いとは思うのですが、そこから産業医につなげておこうという具体的なアクションに移す人は少ないかもしれません。どうしても「大丈夫だろう」というバイアスがかかってしまうようです。 リモートワークが多い会社では欠勤・遅刻に気づきづらく、対面で社員の表情の確認ができないため、社員の不調に気づきにくくなっています。それが今、リモートワークを導入している企業の多くで課題として認識されているようです。 私自身が産業医や人事の会合に参加した際、やはりそれが課題になっている企業が多いと聞きました。追い打ちをかけるようにコロナ禍の精神的な影響は出始めています。学術的な調査でも、コロナ禍によるメンタルヘルスへの悪影響を報告する結果が多く出ているので心配しています。
重要度を増すメンタルヘルス対策の基本について
メンタルヘルス対策の基本的な考え方には、1次予防、2次予防、3次予防の3つのフェーズがあります。これはメンタルヘルス対策の世界の共通認識です。
1次予防
メンタルヘルスの不調を予防するという段階です。研修をするなどして、なるべくメンタルヘルス不調に陥らないよう、セルフケアをする、つまり未然に防ぐということです。生活習慣を整えるのも仕事のうちだという認識で取り組みます。 効果としてはメンタルヘルス不調や休職者の発生を減らすことができるため、社員にとっては最も良い対策と言えます。また、不調者や休職者の対応に伴う管理職や人事部門の負担を減る意味でも望ましい対策と言えます。
2次予防
早期に発見する段階です。管理職の方が部下の様子に目を配り、悪化する前に産業医に相談するなど行動を起こします。不調のままパフォーマンスが落ちた状態で仕事をすると小さなミスが増え、最終的にはやってはいけない致命的な失敗につながるケースもあります。メンタルヘルス不調の影響で操作ミスやメールの誤送信なども起こりやすいため、社員の異変に早期に気づくことが重大なミスの発生を防止することになります。 早めに発見してケアすることで、結果的には休職することになっても深刻化せず休職の長期化を防ぐことにもつながり、自殺など深刻な事態を起こる前に防ぐことができるのがこの2次予防の段階です。
3次予防
復職支援、つまり、休職者が復帰するのを支援する段階です。これをしっかりやることが非常に重要です。よくあるのがこの職場復帰が可能かどうかいう判断を楽観的に判断してしまい、せっかく復帰したのにすぐに休職することになってしまったというケースです。前向きな考え方を押し付けるのではなく、後押しするというスタンスで再休職、離職を防止するのですが、うまくいかないケースも多いので、復職支援に専門的なノウハウを持っている産業医や保健師、外部の機関と連携するほうがいいかもしれません。 本人が復職したくて焦っていても、心の健康が取り戻せたかどうかを専門家が関与して正確に見極めてもらい、職場復帰を果たしても、会社側はいきなり負荷をかけずに精神的なフォローをしながら徐々に通常勤務に戻していくいう進め方が適切だと考えています。
メンタルヘルスが原因で休職した人は再び休職する割合が非常に高く、ほぼ半数にのぼるという結果がさまざまな調査から明らかになっています。社員数の多い大企業だと産業医もいて、人事部も休職対応のノウハウがあるかもしれませんが、中小企業ではどうしても休職=離職になりがちです。メンタルヘルス対策に関してはワークエンゲージメントの向上や人材確保という観点からも、今一度見直すことをお薦めします。
能力を発揮できる環境づくりに必要なこと
メンタルヘルス対策の一環として、社員が能力を発揮できる環境づくりは欠かせません。社員が能力を最大限に発揮できない原因には、長時間労働や業務負荷が重すぎるということが考えられますが、実は、人材育成が不十分であることも要因のひとつとして挙げられます。レベルの高い仕事をこなせる人材が育っていないと、どうしても一部の人に仕事が偏ってしまう、あるいは上司が部下に仕事を任せられずに背負い込んで上司自身が不調になるなど、弊害がでてきます。人材のスキルを高め、それぞれが能力を発揮できるような人材育成が会社の成長につながるといわれています。 さまざまな企業と接する中で、会社の制度が社員の能力発揮を妨げているのではないかと感じることがしばしばあります。例えば評価制度が適切に機能していない場合だと、頑張り損のような形になってしまいます。契約社員でも優秀な人なら正社員に抜擢したほうがよいと思うのですが、人事制度の壁に阻まれてできないと聞いたこともありました。制度は定着して硬直化しているだけに、それが足かせになっていることになかなか気づけないものですが、社員のモチベーションを削ぐような制度は変えていくことが、最終的には会社に成長や利益をもたらすものと考えます。 そのほか、社員の能力発揮を妨げる要因で多いのは、前述した会社の制度に加えて、IT 投資の薄さです。仕事をする環境の不備がその人の能力を発揮できなくしているケースがあるのです。特にリモートワーク下ではリモートワーク環境の快適さが仕事の生産性に直結します。前編で話しましたが、DX化などIT投資は積極的に行うことを推奨したいと思います。IT 環境を整えることで人材活用の幅が大きく広がることがあります。どうしても後回しにしてしまいがちですが、ある時点で会社として思い切って投資したほうが長期的には有利だと思っています。
「Willysm」に期待できること
「Willysm」の具体的な効果としては、まず入力することで上司と部下のコミュニケーションのきっかけになるということでしょう。職場のフィードバックにしても「お互い声をかけ合いましょう」と言うだけでは、その後形骸化することが多いので、こういったツールがあれば取り組みやすいと思います。 メンタルヘルス対策としても、メンタルヘルスの不調に気づくという点で有効です。例えば、急に入力しなくなったとか、「回答したくない」と言ってきたこと自体、不調のサインである可能性もあるので、メンタルヘルス対策の2次予防、早期発見に役立つのではないかと考えます。 また、こうしたツールを導入して運用することが「社員のマネジメントやモチベーションを重視しています」というメッセージになるので、社員の経営層や組織に対する信頼を高めることや、採用場面においても社員のメンタルヘルスや気持ちに配慮する企業であるという対外的なアピールになります。メンタルヘルスやマネジメントが重要だということは分かっていても、具体的にどうすればいいかを模索しているとしたら、そうした課題に対応できる「Willysm」は対策推進のきっかけとして最適なのではないでしょうか。 もちろん、導入して、ただ「入力してください」と言うだけでは、社員の入力率が上がらず宝の持ち腐れになってしまう場合もあります。メンタルヘルス対策でも、まず従業員の方にしっかり理解してもらうことがもっとも重要なことです。導入の際に、「会社のためにもなるし、皆さんのためにもなる」ということを社員にきちんと説明し理解してもらえれば、入力率も高くなり、結果としてメンタルヘルス対策も含めて狙った通りの「Willysm」導入効果が得られると思います。
-Willysmスタッフ一同より-
皆さん、「専門家に聞く!社員のモチベーションを向上させ、優秀な人材流失を防ぐためには」はいかがでしたでしょうか。メンタルヘルス対策といっても具体的に何をしたらいいのか分からないという方が多いと思います。本記事をご覧いただき、メンタルヘルス対策を見直すきっかけにしていただけると幸いです。 宮中先生、ご協力ありがとうございました!※写真撮影の時だけマスクを外していただきました。感染症予防のため、インタビュー時はマスクを着用し、ソーシャルディスタンスを確保しております。