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職場モチベーションラボ
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専門家に聞く!
社員のモチベーションを向上させ、
優秀な人材流失を防ぐためには(前編)

専門家に聞く!社員のモチベーションを向上させ、優秀な人材流失を防ぐためには(前編)

今回お話をお聞きしたのは、HR・ピープルアナリティクスや心理学・産業保健の知見を活用した組織に対するコンサルティングなど、健康経営や職場のメンタルヘルス対策などを専門領域とする宮中大介先生です。前編・後編に分けてお届けしますが、いずれも専門家ならではの示唆に富んだお話は役立つことばかりです。
前編は主に社員のモチベーションを高める方法について、後編はメンタルヘルス対策について語っていただきます。

Interviewee:宮中大介(Daisuke Miyanaka)さん
Interviewee:宮中大介(Daisuke Miyanaka)先生

宮中大介先生 プロフィール

株式会社ベターオプションズ代表取締役、慶應義塾大学特任助教。
行動科学とデータサイエンスを応用したサービス開発を専門領域とする。格付会社にてアナリスト、EAP会社にてサービス開発部門長を経験し独立。東京大学大学院医学系研究科修了(公衆衛生学修士)。大学でポジティブ心理学やメンタルヘルスの研究にも従事している。

人材流出で企業がこうむる不利益と社員が離職を考える理由

 優秀な人材流出によって、企業にどんな不利益があるかと言えば、当然のことながら、その人が企業で働き続けていた時にもたらされていたであろう利益が失われてしまいます。また、その人の代わりの人材を採用しなくてはいけないので、採用に関する費用や人材会社に支払う費用がかかります。さらには採用した人がすぐに戦力になるとは限らないため、後任の方を受け入れてからのトレーニングなどにかかる費用も発生してきます。
 調査の結果から、社員が離職を考える理由として多いのが、

  1. ① 仕事への満足度が低い
  2. ② 対人関係に問題がある
  3. ③ 待遇が悪い

 というものです。このことが原因でストレスが溜まり、ワークエンゲージメントが低下することが離職につながるのです。

 また時代の潮流として、転職をネガティブに捉えている人が減ってきたこと、それに伴い転職の機会が増えてきていることも、離職を促進する要因になっています。
 30代~40代における転職のハードルは昭和時代ほど高くありません。転職歴があることがマイナスには作用しなくなっているのです。伝統的な有名な企業など一部の大企業は新卒の新入社員が上り詰めていくカルチャーなので一般に離職者は少ないのですが、新しいIT企業やベンチャー企業などでは門戸が広く横断的に活躍できるため、転職する人もかなりいるようです。どこの企業でも優秀な人材流出は防ぎたいと思っているはずですが、優秀な人ほど転職しやすいことも確かで、それが離職の要因にもなっています。

 昨今は大手の企業口コミサイトを参考に、転職活動を行うことが当たり前になりました。インターネットの普及によって企業の生の情報が得られるようになり、転職希望者にとっては利用価値大だと思います。一方で、企業にとっては内実が露見することになるなど、なかなか厳しい側面もあるようです。

 かつては「定年まで面倒をみる」というスタンスで雇用してきた企業が多かったと思いますが、今では雇用負担と収益向上のバランスを取ることが難しい時代になっています。経団連前会長の故・中西宏明氏が「もはや終身雇用は難しい」と発言し話題にもなりました。
(参考元:https://www.itmedia.co.jp/business/articles/1905/22/news039.html

 転職はしやすくなったといえますが、自分に力がないと流されてしまうので、働く個人個人が考えなくてはいけない時代です。企業側にとっては優秀な人材が流出しないよう、常に就業環境をチェックしていかなければ厳しい時代になったのだといえるでしょう。

社員のモチベーションが高まる職場とは

 では、社員にとって魅力的な職場、社員のモチベーションが高まる職場とはどんな職場なのでしょうか。私のサーベイの経験やさまざまな研究成果を踏まえると、ハックマンとオルダムという研究者が提唱している下記の5つのモチベーションが高まる仕事の特徴がヒントになると思います。

①技能の多様性
自分がいろいろなスキルを使う場面があるということ。単調な仕事ではなく、いろいろなスキルを発揮できるとモチベーションは上がります。
②仕事の完結性
細分化された1つのパートだけを担当するのではなく、初めから終わりまで一貫してやれる仕事の完結性は大切だと考えます。やり通すことで達成感を得られます。
③仕事自体の重要性
自分自身がやっている仕事が「重要で意義がある仕事だ」と思えることもモチベーションにつながります。具体策の例は取り組みのところでお話します。
④自律性
言われた通りにやることを求められるのではなく、自分からいろいろ工夫することができ、それが反映できる仕事であること。自分で考えたり、提案ができる仕事であれば、モチベーションが高まるということが知られています。
⑤フィードバック
仕事に対してフィードバックを受けられることは重要です。上司や同僚からの直接的なフィードバックは励みになります。

モチベーションを高めるための具体策

 次にモチベーションを高めるためにはどうすればいいか、組織での取り組みと個人の取り組みを分けて考えていきたいと思います。
 会社側の取り組みとしては、同じ仕事を繰り返すような工場のラインでも、職場内で周期的にローテーションを変えるといった工夫をすることはできます。一部分のパートだけをこなす仕事では完結性を求めることは難しいですが、フィードバックの観点から、仕事の進捗や出来不出来が担当者に分かりやすく可視化される、あるいは担当者の技能を定期的に評価して技能レベルに応じてバッジがもらえるようにするなど、やりがいにつながる仕組みづくりは可能です。

 文書の中の数値を拾ってそのまま転記したり、定型の文章を手作業で作成するといった単調で工夫の余地がないような仕事こそ、私はコンピューター化の促進が必要だと思っています。人が人としてモチベーションを維持して仕事を続けられるように、先ほどのモチベーションにつながる5つの要因がどうしても成り立たないような仕事には、RPA(ロボットによる業務自動化)などを積極的に取り入れられるといいと、個人的には考えています。

 また、推奨しているのが、仕事の意義を共有する機会の創出です。週1回、月1回でよいので全社的な朝礼などで、会社が自社の現状や業界全体の動向などを伝え、「我々の部署は今、こういう立ち位置にある」ということを伝えれば、自分たちの仕事や部署の位置づけや存在意義を意識できるようになります。自分のいる業界のことを知る機会がないまま働いている人も多いかもしれませんが、自分の会社は業界でどのような役割を担っているか、自分がやっている仕事が会社の何に役立っているかを知ることで、仕事へのモチベーションも変わってくるものと思います。

 フィードバックについては、営業担当者は前線でお客様と接しているため、比較的他者から評価してもらいやすいですが、内勤のエンジニアなどはお客様と接しないので、自分が作ったものがどういう評価を受けているか、なかなか分かりません。自分が関わったサービスの評価がしっかり本人にフィードバックされることがモチベーションにつながると言われているので、直接顧客接点のない部署や職種の社員には、顧客や利用者からのフィードバックを間接的に受ける機会を作るようにしたいものです。

 例えば、システムベンダーであれば、開発したシステムに対する顧客からの評価や要望を営業部門からエンジニアに伝えるための機会を定期的に設けることが考えられます。その他では、製薬会社や医療機器メーカーにおいて、自社の医薬品や医療機器を使用している患者のインタビュー動画が、経理や人事などのバックオフィス部門を含めて全社で共有されているという事例を聞いたことがあります。

 個人的な取り組みとしては、与えられた仕事の中でも、創意工夫ができることは自律的に取り組んでみるとか、チームメンバー同士互いに声をかけ合い、評価し合うことも大事です。相互コミュニケーションを取ることが習慣化されれば、おのずと風通しのいい雰囲気が醸成されます。組織としても積極的にそうした風土を創生していくことで、社員は引っ張り上げられていくのです。

ジョブ・クラフティングについて

 「ジョブ・クラフティング」という言葉があります。これは自分から仕事を面白くしていくという考え方なのですが、最近心理学でも注目され、さまざまな業界で広がり始めている概念です。その考え方の中に「仕事に関わる人を増やしていったり、自分から人に関わりを持っていく」という視点があります。モチベーションを高めるためにフィードバックが大事だと言いましたが、同僚や上司に自分からフィードバックを求めていくという姿勢も欠かせません。それが仕事自体を面白くすることだけでなく、良好な人間関係につながり、さらにモチベーションを高めます。

 職場は人が集まって形成されるものですから、人が影響を与え合う場所です。職場の中で感情が伝播することが明らかになっているので、当然のことながらモチベーションも、人から人へ伝わっていくということになります。
 モチベーションが高まり、職場がいきいきとしていると定着率も高くなりますし、仕事のパフォーマンスも上がります。研究結果でもそれが明らかになっています。残念ながらメンタルヘルスが原因で休職される方が多い職場だと、業績が上がりづらいということも研究で分かってきています。そのためマネージャークラスの方が、社員の状態を把握しておくことは非常に重要です。

サーベイの結果から見た人材定着のヒント

 企業として人材流失を防ぐ施策に取り組む際には、まずサーベイで実態把握をすることが大切です。私は何百社とサーベイを行っているのですが、想定外のびっくりするような結果が出ることはほとんどありません。人事担当や管理職の方に結果を見せても「やっぱりね」という反応が8割くらいなのです。分かっていることが結果として出て来て、それを改善していけばいいのですが、なかなか改善できないのが実情のようです。

 また、サーベイの結果を具体的に読み解くことも、その後の改善のために重要です。例えば、「あなたの職場は仕事に成長感を感じられますか」という問いに対して、「成長感がない」という結果だったとしても職種によって「成長」の捉え方が異なる可能性があります。例えば営業担当だとしたら、より大きな顧客を担当することを成長だと考えていたり、エンジニアなら新しい技術を身につけることであったり、職種によって成長感の意味が全く異なります。
 サーベイの結果を受け取った管理職が、自分の部署を想定してなるべく具体的にサーベイを読み解き、具体的な取り組みに生かすことではじめてサーベイの結果は活かされます。

 一定以上の規模の企業であれば実施しているサーベイの内容や頻度自体は企業による差はそれほど大きくないのですが、その活かし方にはかなりの差を感じます。中には、サーベイの結果をもとにして人事の方が管理職と面談し、結果の背景を突き詰め、さらに管理職が改善のための具体的な行動を行ったまでを人事の方がフォローアップしているような企業もあります。きちんと対応している企業はそれがカルチャーとして定着していて、社員の雰囲気も違います。

 長い眼で見れば、それが業績にも表れていくのではないかと考えられます。人事制度や成果制度などはなかなか変えられないので、比較的変えやすい社員同士のコミュニケーションの在り方、上司のマネジメント行動、組織風土といった面についてサーベイで確認し、改善の必要がある項目については改善のための具体的な行動や施策を実施し、その成果をサーベイで確認するというPDCAサイクルをしっかり回していくことが優秀な人材流出を防ぐうえでの鍵になると言ってもいいかもしれません。

-Willysmスタッフ一同より-

当社サイオステクノロジーでは、 社員のモチベーションと組織の生産性向上を目的としたモチベーションマネジメントシステム「ウィリズム」を提供しておりますが、改めて「モチベーションを高めること」の必要性を強く感じました!後編もどうぞお楽しみに。



※写真撮影の時だけマスクを外していただきました。感染症予防のため、インタビュー時はマスクを着用し、ソーシャルディスタンスを確保しております。

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