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職場モチベーションラボ
▶Workplace Motivation Laboratory

従業員の健康を守る産業医の役割とは

今回お話をお聞きしたのは、2021年11月から弊社の産業医を務めている原田寛之先生です。意外と知られていない産業医の役割やメンタルヘルス対策、産業医から見た「Willysm」の効用などを語っていただきました。
Interviewee:原田寛之(Hiroyuki Harada)先生

原田寛之先生 プロフィール

医師 専門分野は精神医学、産業医学 都内精神科病院に勤務しながら訪問診療などの地域医療にも従事。 また嘱託産業医として主にメンタルヘルスや復業支援を行っている。

「産業医」は病院やクリニックにいる医師と何が違うのでしょうか。

私は医師の免許を持っていますが、医師免許を持っていれば誰もが産業医になれるというわけではありません。厚生労働省令に基づいて、労働者の健康管理などに必要な医学に関する一定の研修を修了し、資格認定を受けて初めて産業医として勤務できるようになるのです。従業員が50人以上の企業は産業医を雇わなくてはならないことになっており、また危険物を取り扱う業種か否かによっても産業医の人数や業務形態が異なります。

産業医は企業に出向いて臨床医のように日常的なケガや病気に対応するわけではありません。もちろん目の前で誰かがケガをした場合には対応はしますが、本来、産業医は医療行為を行ってはいけないことになっています。

だから、例えば私がここで頼まれたからといって採血をしたら、それは犯罪になってしまいます。医療行為にはいろいろなものがありますが、病気の話を聞いても診断も治療もできないのです。そこは臨床医と明確に分かれているところです。

仕事の内容を教えてください。

産業医は古くは「工場医」として、労働者の安全や健康、衛生環境などを指導することが主な仕事だったという歴史があります。しかし現在はIT化が進みホワイトカラーの企業では従業員のメンタルヘルスケアや健康相談、生活習慣病の対策が重要視されるようになっています。

具体的にどんなことをしているかというと「職場巡視」、つまり職場環境をチェックし、指導することが大きな仕事のひとつです。例えば、照明が明るすぎないか、日差しが入り過ぎてまぶしくないか。あるいは職場の湿度が高すぎないかなどです。もっとも今は空調が整っているので、湿度云々の指導が入ることはほとんどありませんが。 企業ごとに職場巡視でチェックするところは違いますし、気を付けなければならないチェックリストも業種ごとに異なります。こういったチェックポイントは産業医の認定研修を受けなければ分からないことで、一般の臨床医の先生とはかなり視点が違うと思います。

それから、もう1つの大きな仕事が健康診断のチェックです。皆さんが毎年受けている健康診断の結果を見て、専門医の受診を勧めたり、生活習慣病予備軍であれば生活習慣を改善する保健指導を入れたりします。 さらに月に1度、会社で開かなければいけない衛生委員会の場も大切にしています。従業員が50人以上の企業では、衛生委員会を設置しなければならないことになっていますが、衛生委員会では過重労働者やメンタルヘルスに支障をきたしている従業員数を集計したり、ストレスチェックの結果を聞いてアドバイスすることもあります。

また、その場を使って、例えば「メタボリックシンドロームとはどういった状態を指すのか、どうしたら予防できるのか」といった、健康に関する知識を得てもらう健康教育のようなことも行っています。月1回なので、全社員にそういった話ができないのはもどかしいところですが、今後は「うつ病になった社員との接し方」などのメンタルヘルスの有益な講話もしていきたいと思っています。 あとは、従業員の方の個別面談で、それぞれの課題に対応しています。

勤務形態をお教えください。複数の企業をご担当ですか。

私は勤務医と、複数の企業の嘱託の産業医として働いています。精神科の病院に週5日勤務し、金曜日は産業医としてサイオス他、複数の企業を担当しています。 専属の産業医になるには要件が細かく決められています。一般企業では従業員が1,000人以上だと専属の産業医を雇わなくてはなりませんが、危険物を取り扱っている企業では従業員500人以上で専属医を配置しなければなりません。危険物を取り扱う業種では「産業医学」を修めている医師が専属となるので、私とは専門分野が少し違います。

現在、産業医の需要はメンタルヘルスの分野がかなり増えています。うつ病や統合失調症など心の病については専門知識や対人スキルが必要なので、企業側も内科医より精神科医のほうが安心だと思ってくれていて、精神科医が産業医になるケースも増えてきているようです。

産業医には、具体的にどのようなことを相談できるのでしょうか。

健康相談は何でも受け付けはするのですが、メインはメンタルヘルスの相談になります。面談をしなくてはいけない方が決まっていて、まず残業時間が多い方。残業時間80時間以上で面談を希望した場合に面談します。100時間以上の方は本人が嫌だといっても、面談しなくてはならないことになっています。 また、ストレスチェックで「高ストレス」判定を受け、申し出がある方も面談となります。そのほか大病や手術をして休職中だった方が復職するという時には、私が面談して経過などを聞きながら情報共有し、様子を見ていきます。

サイオスには月に1回訪問しています。メンタルの相談がメインなので1人ひとり時間を割きたいところですが、基本的に1人20分くらい。衛生委員会が終わった後はずっと面談をするという形で、1日に数人ほどでしょうか。話を聞いてほしいと申し込みをしても、残業時間が多いとか、明らかにメンタルヘルスに支障をきたしている方など、優先しなくてはいけない方がたくさんいて、健康相談などになかなか対応ができないのが残念です。

相談内容で上位を占めるものにどんなものがありますか。

会社でメンタルを崩す方の原因は主に2つ、人間関係と仕事量です。それしかないと言っても過言ではないかもしれません。人間関係は人それぞれなので正解がありません。対応は非常に難しいですね。その方の個性に合った言葉選びも必要で、それぞれに対応するためのレシピを考案しなくてはなりません。

仕事での人間関係というと、やはり上司との問題が多いのですが、最近は「逆ハラ(逆パワハラ)」といって、部下による言動がパワハラになっているケースもあります。もちろん同僚との人間関係が原因になる場合もあります。同僚への羨望からくる不安やイライラを抱える方もいますから、人間関係からくる悩みは本当に多様です。

新型コロナウイルス感染症の発生前と後とでは、相談内容に変化はありましたか。

新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)による変化は実感しています。新型コロナ自体に不安を持っている方もいますが、何よりもリモートワークの影響が大きいのではないでしょうか。 リモートワークだと、上司や同僚が隣にいて、すぐ声をかけられるわけではありません。顔も見えず、コミュニケーションが希薄になったことで不安感が募り、調子を崩すという方が多かったように思います。新型コロナをきっかけに会社の体制や仕事の進め方が変わり、分からない仕事が急に始まって困惑した、という話も聞きました。

私の場合、コロナ禍での面談はそれぞれで、オンラインでの面談の方もいれば、対面での方もいます。オンラインでもいいのですが、対面のほうが明らかに受け取る情報量が多いので、やりやすいですね。私たちは顔色や仕草、目つきなど、細かいところを注視しています。オンラインの映像だとその微妙な変化が分かりにくくなります。マスクをしていても、対面のほうが情報を正確に受け取りやすいので、精神科医としてはもどかしいし、難しいなと思っています。

産業医への面談を勧める理由をご教示ください。

私は3つあると思っています。それが次の3つです。

1.メンタルの不調を早期発見できること

医療機関に受診する前に私たちが早く気づけば、会社内で解決できることはたくさんあると思っています。

2.正確な知識を取得できること

私と話すことで、医療に関する正確な知識が得られます。どうしてうつ病になるのかといった知識なども、インターネットやテレビの情報にはバイアスがかかっていることが少なくありません。実際に精神医療の現場で診療している私の話を聞いたほうが、間違いなく正確な知識がつき、不調を抱えたとしても対処へのイメージがわくと思います。

3.話すことで気づきを得られること

これは私が一番いいなと思っている点です。自分の考えを話すこと、言葉にするということはとても大事なことです。考えがまとめられずにモヤモヤしている方は、ずっとモヤモヤしたまま、1人でうつうつとしてしまうのです。 それが人に話すことによって、自分の考えやしたかったことに気づくんですね。言葉にするうちに考えがまとまり、明確化するわけです。モヤモヤしていたことが形になり、「あっ、こういうことだったんだ」という気づきがもたらされます。 言葉に出すことが大事なのと同じように、紙に書くことも有効です。モヤモヤしたら、 アウトプットすることを心がけてみてください。

わざわざ心療内科に足を運ぶのはハードルが高いと感じる方もいるかもしれませんが、産業医は定期的に自分の会社にくるわけですから、その機会を多いに利用してほしいと思います。私に話すことで自身の気持ちに気づいたり、少しでも楽になってもらえればいいなと思っています。

最後に「Willysm」について、産業医の観点からご意見などをお聞かせください。

Willysmは、今日の気分を3色から選んで押すだけなので至って簡単な操作方法です。毎日ポチッと押すことによって、自分の気づきにつながる点が良いと思いました。調子を崩している方はどうしても自分の状態に気づきにくいものです。それを自分の気持ちを表した色を目にすることによって、振り返ってみると「今までずっと青(Excellent)が続いていたのに、いつのまにか赤(Not So Good)が増えている」などと、 自分の状態に気づけるという意味では、精神科的にはすごく良いと思っています

加えて、上司が早期に声がけをしたり、双方向コミュニケーションを取るきっかけになるでしょう。また言葉で表現するのが苦手な方にも、自分の気持ちを表現するツールとして勧められます。 サンクスカードをもらったら、すごくうれしいでしょうね。「ほんの気持ち」で気軽に記入してあげても、もらった人は「ほんの気持ち」の10倍くらいうれしいと思いますよ。私も有効な活用方法を考えてみたいと思いました。

-Willysmスタッフ一同より-

今回のインタビュー前まで、産業医さんは「企業における保健室の先生」というイメージだったのですが、医療行為ができないことを知り大変驚きました。 コロナ禍で誰にも相談できず、一人で悩みを抱えていませんか?メンタルや体調について相談したい方は、勤務先の産業医さんに一度相談してみてはいかがでしょうか。 原田先生、ご協力ありがとうございました!

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